猛烈な暑さが続いていた8月初旬、島根県邑南町阿須那(あすな)にある池月酒造にお邪魔し、社長と蔵元杜氏(とうじ)を兼務する末田誠一さん(43)に話を聞いた。
山あいの邑南町まで来ると暑さも種類が違い、気温は高いが過ごしやすい感じだ。
この自然いっぱいの地に生まれ育った末田さんは、大学を卒業して22歳で実家の池月酒造に入った。
当時はいわゆる出雲杜氏が酒造りをしていた。
その環境の中で様々な意見を交換しながら酒造りに没頭し、酒造りの先輩であり人生の先輩でもある方々から多くのことを学んでいった。
28歳の時、杜氏や頭(かしら)が諸事情で池月酒造に来られないようになった。
そのタイミングでスタッフ4人が一気に引退。
心の準備もままならないまま、29歳の時に杜氏として酒造りの責任者になった。
末田さんは蔵元の息子なので、いわゆる蔵元杜氏の誕生だ。
先代の杜氏と電話でやりとりしながら、杜氏として1年目の酒造りをスタートさせた。
まずは酒造りの体制を整えようと新しいスタッフを迎え入れ、少人数でもしっかり酒造りができるように設備も整えていった。
蔵元杜氏は酒造りだけしていてもいけない。
社長として会社をどう成長させるか、計画を立て実行していかなければならない。
その中で決断したのは、純米酒中心の酒造りに切り替えていくこと、そして社長としては、地元の農家に酒米を作ってもらい、その米をいい酒にすることで、蔵を阿須那の産業として確かなものにしていくということだった。
契約農家が予定より少ない米しか作れなくても、予定より多くできても、全部買い取り、全部酒にしてきた。
池月酒造と契約農家の結びつきの前に、昨今の「米騒動」は何の関係もない。
今後も田舎であることを武器に、超軟水の仕込み水を活(い)かして魅力ある酒を造る。
地域を思う心が、原料から一貫生産する「ドメーヌ」という枠組みを結果的に作った。
人と地域を心から大切にする末田さんの今後の活動から目が離せない。